税理士法の第1条(税理士の理念)として、以下の条文があります。
税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
税理士は税金に関する専門家として独立した立場から納税者も適正な納税義務を行わせることが税理士の使命と読むことができます。
税理士になるためには原則として税理士試験に合格をする必要がありますが、この税理士試験が「独立した公正な立場」という税理士の理念を大きく崩す元になる可能性があるのです。今回は税理士試験の本当の目的を考えていきます。
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税理士試験の管理下は国税審議会という名の国税庁
税理士試験の管轄は国税審議会
税理士試験の概要を調べますと、以下の様に出てきます。
税理士試験は、税理士となるのに必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的として行われます。
上述の「税理士試験の概要」は国税審議会という組織が公表されているものであり、税理士試験もこの国税審議会が管理しています。
国税審議会とはどんな組織
この国税審議会は一般的には知られてはいませんが、財務大臣によって任命された委員により組織されています。
この国税審議会はさらに①国税審査分科会、②税理士分科会、③酒類分科会で構成されており、税理士試験の作成や試験内容のチェックなどは主に税理士分科会により行われています。
また、税理士の懲戒処分などの審査も税理士分科会で行われています。
国税審議会も国税庁の組織のひとつ
この国税審議会はどこに設置されているかというと、国税庁の中で設置されています。このように考えると、税理士試験の作成・チェック・解答などは国税庁が行っていると行っても過言ではないでしょう。
税務署・国税局の管轄をする組織も国税庁
税理士試験を作成している組織が国税庁内の国税審議会であることを紹介しました。
その一方で国税局と税務署を管轄するのも実は国税庁です。そもそも論ですが、国税庁・国税局・税務署とは何が違うのでしょうか。 まず、その前提として税金(国税)を扱う日本の行政機関を整理してみます。
国税庁は財務省の外局の位置づけで国税局を指導する立場
財務省主税局というところで、内閣及び国会などの影響下のもと税法を立案します。いわば、ここが税金のルールを取り決める頂点にいるお役所です。
国税庁は財務省の外局との位置づけです。主税局でルールを決め、次にそれを実施していく部署が必要となります。それが、国税庁です。
国税庁は全国11ヶ所の国税局及び沖縄国税事務所を指導・監督する立場にあります。
国税局は税務調査の実行部隊 マルサも国税局の部署
国税局は税務調査の実行部隊です。「マルサの女」などで知られるマルサという隠語で呼ばれた査察部は国税局の部署になります(若い子は知らないかもしれませんね)。
また、資本金が1億円以上の大会社や外国企業の法人税・消費税の調査を行う調査部や有名・著名人を専門に調査する部署もあります。
また、資料調査課という部署では、日々の情報収集活動を行い、また、税務署では扱えない規模の会社を調査したりします。 また、税務署の指導・監督する立場でもあります。
税務署は一般の納税者が訪れる身近な税金を扱う行政機関
一般納税者が税金の関係で訪れるのは税務署になります。税務署では、税務相談・各種届出書、申告書の受理を行う内部の部署と税務調査をおこなう部署とがあります。
一般に中小企業の調査は税務署の職員が担当し、実地調査は2~3日で行われています。
税理士も国税庁の駒 税理士試験は国税庁の都合のいいように出来ている
税理士も国税局・税務署も同じ釜の飯を食べている存在
以上のように踏まえますと税理士や国税局・税務署は国税庁の管轄内で管理されていることが判ると思います。
では、冒頭で述べたことに戻りますが。
税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
税理士は、税務に関する専門家として、一般の納税者と国税局・税務署と独立した立場として、納税者のために適正に納税義務を果たさせることを使命としています。
しかし、税理士になるために税理士試験を受ける必要があるのですが、その税理士試験を作成しているのが国税審議会という名の国税庁です。となると、必然的に税理士は国税庁に求められた人材になるわけで、納税者と国税庁との公正な立場に立つことが難しいこととなります。
税理士試験は国税庁の都合の良いようにできている
この税理士試験は結論からいってしまえば、国税庁の都合の良いようにできています。
というのも税理士試験を受けるために多くの受験生が、専門学校などで税理士試験対策として多くの計算演習や理論を暗記していきますが、その計算と理論の根拠となっているのが、各税法の法律の条文のみならず、通達という文章などです。
通達は法律ではない 税務署内における法律の解釈をまとめたもの
基本的に法律には詳細なことまでは書かれてはいません。なぜなら、ある程度の解釈の余地を持たせる必要があるからです。
この解釈の余地があることで、様々な見解が生じ、このような場合には税金が生じるのか否かというもめごとが生じます。税務調査で主にもめるのがこの法律の解釈です。
そこで、国税庁から下級機関の税務署などの法律の判断が個人レベルでぶれないように統一させた文言が通達になります。
税理士の中でも勘違いしている人が多いのですが、通達は簡単にいってしまえば税務署内における議事録レベルであり、法律ではありません。
法律というのはあくまでも国会で議決されたものだけであり、通達は決して国会で議決はされていません。ですので、極論を言ってしまえば、議事録レベルに納税者が従うことはないのです。
通達と法律の違いがわからない税理士は論外
税理士試験をクリアしてきた多くの税理士は、国税庁が作成するため税理士試験をクリアするために、条文や通達を区別することも無く、専門学校に配られる理論問題集をもとに丸暗記しています。
ですので、税理士試験をクリアするということは必然的に国税庁に都合の良い人材を作るための登竜門でしかないのです。
残念ながら、税理士の中には通達と法律の違いがわからない税理士がいるのも事実です。クライアントの問い合わせに対し、「通達に書かれていますから」と回答する税理士がいるのも事実なのです。
このような税理士が顧問税理士であれば、新たな税理士を探すのも選択肢のひとつです。
税理士試験は試験と割り切る 法律の解釈ができる税理士こそが公正な立場
税理士試験はあくまで試験と割り切る
とはいっても、税理士になるためには税理士試験をクリアするほかにはありません。受験期間中は残念ながら、国税庁の駒になるかのように条文のみならず通達も丸暗記する必要があるため、そこは割り切る必要があります。
しかし、税理士になったら税理士試験で覚えたことは一旦、忘れる必要があります。試験内容で覚えたこと全てで動いてしまうと国税庁の駒のままです。
税理士としての公正な立場を守るのであれば法律の解釈が必要
税理士の使命は、なんどもいうように税務に関する専門家として、一般の納税者と国税局・税務署と独立した立場として、納税者のために適正に納税義務を果たさせることです。
税務署側に立つことが適正に納税義務を果たさせることではありません。税法等の条文を読んで適正に解釈することで本当に納税義務があるのか否かを検討することが適正に納税義務を果たすことだと考えます。
しかし、残念ながら税理士試験に法の解釈に対する問題は出てきません。日頃から裁判事例などで法がどのように解釈されたのかを注視することが法律家である税理士として重要なのです。