12月に令和初の税理士試験の結果が発表されました。結果が出たことにより、8月からの試験の結果のモヤモヤから解放されたのではないでしょうか。
ところで税理士試験の結果を見ると一つの事実がわかります。それは税理士試験の受験生が著しく減少していること。
令和元年の税理士試験の受験者数は29,779人でした。この受験者数は国税庁が公表する直近5年間の結果の中で一番少ない人数で、初の3万人割れです。
AIやRPAの台頭により脅かされている税理士業界。税理士業界の将来を踏まえ、なぜ受験生が減ってきているのか考えていきます。
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税理士試験の受験者数の推移と税理士合格者の傾向とは
直近5年間で税理士試験の受験者数は22%も減少
税理士試験の受験生はなぜ減少傾向なのでしょうか?その理由を見る前に税理士試験の受験者数の推移を確認していきましょう。
まずは、直近5年間の税理士試験の受験者数の推移と税理士試験の受験者数の年齢別の表です(国税庁HPより加工)。
上記の表からわかるように平成27年の受験者数は38,175人から直近の令和元年の受験者数は29,779人と約22%減少し、かつ初の受験者数3万人割するという事態となりました。
年齢別でみると41歳以上は11,318~11,571人と横ばいですが、一方40歳以下の受験者数は年々減少傾向にあるとわかります。
税理士試験は年齢が増すほどに合格ができなくなる試験
次に直近5年間の税理士試験の合格者数を年齢別でまとめた表です。各年齢別の合格者(科目合格を含む)を各年齢別の受験者数で除して算出した合格者割合を求めています。
この結果からわかることは、なんと25歳以下の受験生のうち約1/3が合格(科目合格も含む)を勝ち取っています。
一方、41歳以上になると1/10の受験生しか合格できないことがわかります。
このように、年齢差で極端に合格率が分かれてしまうのは、税理士試験が相対試験であることが理由に挙げられます。
税理士試験は公表では60点以上で合格と明文化されていますが、実態は受験者数の上位10%が合格できる試験です。税理士試験の概要について知りたい方は上記の記事が参考になります。
税理士試験が相対試験だとすると極端な話、大学生VSアラフォー世代のガチ勝負となります。
わかりやすく野球で例えれば、引退間近のベテラン選手とエンゼルスの大谷投手とがガチ勝負するという場面をイメージすればわかりやすいかと思います。
あなたがイチロー選手など衰えを感じさせないほどのずば抜けた能力でしたら別ですが、一般の人が大学生に勝つのは至難のわざといえるでしょう。
なぜ税理士試験の受験者数は減少傾向にあるのか?
以上の結果を踏まえ、なぜ税理士試験の受験者数は減少傾向にあるのでしょうか?
その理由は、税理士試験制度の仕組みと税理士業界に襲いかかるAIやRPAなどの新技術の台頭にあると考えられます。
税理士試験は他の国家試験に比べ受験期間が長期化しやすい
税理士試験に合格するためには、税理士試験の上位10%に入らなければ合格できないことは上述通りです。
しかし、税理士試験は科目合格制です。各会計科目、税法科目のうち5科目に合格しなければならず、各科目においてそれぞれ上位10%に入らなければいけません。
1年に1科目づつ税理士試験に挑戦するだけでも最低5年はかかるわけですから、自ずと他の国家試験に比べ受験期間が長くなる傾向があるため、敬遠傾向となります。
その結果、受験生自体が高齢化になりつつあります。
受験期間が長くなってしまう傾向があることから税理士試験の受験生が若い人たちが合格を勝ち取るか、早期に違う分野へと進出する。
さらに約30%が40歳OVERという結果を見ると同じ人が合格できずに毎年滞留しているのかもしれません。
税理士の仕事がAIに置き換えられることによって需要がなくなる可能性がある
2014年、AI(人工知能)を主に研究しているオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文において、消える職業として「レストランの案内係」「カジノのディーラー」「図書館員の補助員」など多岐にわたり、数十年後にはアメリカの労働者の半数がコンピュータに仕事を奪われると結論づけています。
直接、税理士という職業は明言されてはいないものの、同じような業種として、「税務申告書代行者」「簿記、会計、監査の事務員」が入っています。
実務においても全自動のクラウド会計ソフトの登場など、仕分けの自動入力の技術は到来しており、記帳代行がAIによって仕事が置き換えられています。
また、申告もRPA(Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション)の登場により、税務申告もいずれはロボットが作成する時代はいずれやってくるでしょう。
このように考えると長い期間、一生懸命勉強して税理士資格を取得したにも関わらず、AI、RPAにより仕事が奪われてしまう脅威がある以上税理士業界の将来性を不安に感じ、税理士資格を断念する傾向があるのでしょう。
AIやRPAの新技術の登場で今後の税理士業界は暗いのか?
長い時間かけて勉強してやっと取得した税理士資格。それがAIやRPAに仕事が奪われてしまう税理士業界。
果たして、今後の税理士業界の将来は暗いのでしょうか?私見ですが、このままの税理士業務を今後続けていけば将来性は暗いかもしれませんが、新技術を味方に付ければ新たなビジネスチャンスはあると考えています。
税理士業務が記帳代行や申告業務だけと考えれば将来性は間違いなく仕事は無くなる
現在、税理士事務所の多くの時間を費やしている業務はクライアントの帳簿の記帳代行や申告業務です。
将来、これらの業務が全てAIやRPAに仕事を奪われてしまうかというと最終的なチェックは人間がやらなければならないのでゼロになることはないでしょう。
しかし、将来的には10人でやっていた仕事が5人、さらに1人と必要とする作業者は必要なくなるでしょう。
もっと言えばチェックするだけであれば、必ずしも税理士が行う必要がなく、要点さえ掴んでしまえば誰でもできてしまう作業になると考えます。
AIやRPAの登場により業務の効率化が図れれば人間味のある仕事ができる
しかし、考え方の視点を変えれば従来時間がかかっていた業務をクライアントへの自計化へと促す経理コンサルティング業務を行うことができます。
また、税務署を相手にする税務調査やクライアントとの経営相談に時間を置き換えることはできるので、より人間力が求められる仕事へとシフトできます。
コンサルティングや経営者との相談、共感など人間だからこそできる人間力を必要とする分野へと新たなビジネスチャンスがあると考えます。
また、個人的には記帳することや申告業務ができるという能力は税理士にとっては最低限のスキルと考えています。
「誰よりも正確に記帳や申告書を作成できる」ことを謳い文句にしても差別化ができる税理士とはいえないでしょう。誰よりも条文を暗記するよりも人間力をあげる努力が今後、必要となります。
個人的には今後、税理士がAIが取り巻く時代に求められる能力は以下の書籍が参考になります。
高齢化の税理士業界 新技術が登場するからこそ若い税理士にビジネスチャンス
日本税理士業界の調査によれば、税理士の半分が60歳以上と超高齢化へと突入しています。
実際にパソコンが一切さわれない税理士もいるので、AIやRPAの登場は彼らにとってはまさにドラえもんの世界といえるでしょう。
現在の働き方改革により副業など新たに起業を目指す若い人がそのような税理士に相談したいかというと間違えなくNOでしょう。
また、毎年税制改正が行われることから、今から税理士を目指す若い受験生にとってはまだまだビジネスチャンスが残る業界だと個人的には考えています。
さらに、税理士試験の受験者数が減少、さらに高齢化への拍車を考えると将来的に税理士不足の時代が到来する可能性もあります。
ライバルが減ってきている今だからこそ、税理士を目指すチャンスです。個人的には、税理士という職業は様々な業種の人と出会えることから、とても面白い職業だと思っています。
この記事を見て、税理士業界に飛び込んでみたいと思っていただけたら幸いです。税理士業界を検討したいならこちらの記事がおすすめです。