令和元年10月23日、人気芸人のチュートリアルの徳井義実さんが設立した会社の株式会社チューリップ(以後、チューリップ社)(東京都世田谷区)が2018年3月期までの3年間の法人所得約1億円を申告していなかったことが報道されました。
お笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実さん(44)が設立した会社が、2018年3月期までの7年間で約1億2千万円の申告漏れを東京国税局から指摘されたことがわかった。
このうち約2千万円は徳井さんの個人的な支出を会社の経費として計上したとして、所得隠しと判断された。追徴税額は約3400万円とみられ、すでに修正申告したという。
すでに知らない人はいないほどの人気芸人である徳井さんの悪質な脱税報道により、最近の報道におけるトップニュースとなっています。
今回は、税理士の立場、そして実務面からの立場として、徳井氏が犯してしまったことから税金の基本をわかりやすく解説していきます。
Contents
あなたは大丈夫?チュートリアル徳井義実さんが起こした申告漏れとは?
そもそもチュートリアルの徳井氏が申告漏れをしたと報道されていますが、はたして申告漏れとはどのような行為なのでしょうか?
日本の税金の計算方法がわかれば理解できると思います。
日本の納税制度は申告納税方式
日本では、法人やフリーランスなどの個人事業者などは税金の納付においては申告納税方式が適用されています。
この申告納税方式というのは、納税者自らが税法に基づいて所得や税額を計算して申告し、納税する方法です。
日本においては、所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税などがこの申告納税方式が適用されています。一般的にいう確定申告です。
サラリーマンは年末調整で所得税の計算をしている
自分はサラリーマンだけど今まで確定申告をしたことがない!自分も申告漏れがあるかも。と考えている人がいるでしょう。
ご安心してください。サラリーマンの人は給与から源泉所得税が予め、天引きされています。
そして毎年、会社などの事業主に対して年末調整という手続きにより所得税の計算をしていますので、申告漏れということはありません。
ただし、源泉所得税という知らないうちに納税し、年末調整で事務的に行われていますので、サラリーマンの方が納税意識が一般的に低いといわれている実情です。
報道されている徳井氏の申告漏れとは!?
日本が申告納税方式であるという前提を踏まえますと、徳井氏が起こした申告漏れが理解しやすいと思います。
徳井氏が設立したチューリップ社は決算期が3月と報道されています(法人は決算期を自由に決めることができます)。
チューリップ社の場合、決算期3月から原則2月以内、つまり5月までに法人税の申告を行い、納税額があれば、納税をしなければなりませんが、徳井氏はその申告すらせず、かつ納税すら怠っていたということです。
今さら聞けない?税金の仕組み 所得税・法人税などの仕組み
報道に出てくるキーワードの「チューリップ社」。はたして、このチューリップ社は何のために設立されたのでしょうか?
この答えも税金の仕組みがわかれば理解できます。答えは単純。節税目的のために作られた会社です。
個人で稼いだ収入は所得税・消費税の対象となる
原則、個人で稼いだ収入は所得税の対象となります。
芸能人やスポーツ選手の方は基本的に個人事業主になりますので、得た出演料などの収入などから収入を得るために使った必要経費(新幹線代・ガソリン代など)を差し引いて計算した所得額から税金を計算します。
また、事業者から個人事業主に支給する売上などは消費税の課税対象に該当しますので、一定の条件に該当すると消費税の納税義務が生じます(消費税の課税の仕組みの説明は割愛します)。
法人が得た収入は名前の通り法人税・消費税の対象となる
今回、徳井氏が行っていた方法がこちらの方法です。
まず、TV局などの出演料を吉本興業から今回問題となっているチューリップ社に支給します。
この支給額はチューリップ社の収入ですので、法人税の課税の対象となります。そして上述の通り、消費税の課税対象ともなります。
そして、チューリップ社が得た収入から役員である徳井氏に対し、役員報酬として支給する形です。この役員報酬はチューリップ社から徳井氏への支給になるため、徳井氏にとっては、所得税の対象となります。
一方で、役員報酬などの給与は支給時において予め源泉所得税を天引きし、納付する必要がありますので、支給した時点で、チューリップ社は源泉所得税の徴収義務が生じます。
なぜ、チューリップ社を挟むと節税になるのか?
上述のようにそれぞれでどのように税金が発生するのかを説明しました。
一見、チューリップ社を作ることによって法人税と所得税の二重課税になって納税負担が増えるのではないかと思われるかもしれません。
しかし、法人税と所得税の税率を確認すれば理解できます。
所得税は累進税率 住民税を含めると最大55.945%も課税
所得税の税率は、累進税率といって、所得額が増えれば増えるほど税率が上がる仕組みになっています。
下図は所得金額に対する所得税の税率の早見表(国税庁HPより)です。
この所得税の税率に対し、県民税・市民税などの住民税の10%と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)も課されますので、4,000万円を超えると55.945%もの税金が課されることとなります。
法人税は個人の所得税よりも低い 実効税率30.62%
サラリーマンや個人事業主の方にとっては法人税は馴染みがないかもしれませんが、東京都の場合の法人税の実効税率は30.62%となります。
なお、この実効税率とは会社が、利益の額に対して負担する税金の額の割合をいいます。
簡単に整理すると、日本の法人の利益にかかる税金は、以下の5種類です。
1)法人税 (税率23.2%)
2)地方法人税 (税率4.4%)
3)住民税 (税率16.3%)
4)事業税 (税率0.88%)
5)地方法人特別税 (税率2.9%) →(2020/12期より 法人事業税の一部を分離し、特別法人事業税が創設)
ですので、所得税の場合の最大税率が55.945%に対し、法人は30.62%であるため、同じ所得であれば会社にした方が税負担が少なくなります。
また、所得税よりも法人税の方が経費にできる項目があり節税しやすい傾向があるので、一定の所得があるならば、法人化した方が税負担が少なくなるといえます。
役員報酬のバランスを考えれば結果的に節税となる
あくまでも所得税と法人税との比較でしたが、結果的に収入を個人に帰属できなければ意味がありません(法人と個人は法律上は別物)。
個人に収入を帰属するために役員報酬にて還元するのですが、給与所得が900万円以下であれば税率が所得税と住民税30%となるため、個人事業主として全収入を得るよりも節税できる可能性が高くなるのです。
なお、SNSなどで会社を作って税金安くなるってけしからんという声がありませんが、これは基本的な節税方法であり、多くの有名スポーツ選手なども用いる手法です。
チューリップ社の存在が違法ではなく、申告漏れが違法であるため、何に問題があったのか理解しましょう。
徳井氏が行なった所得隠しとは?申告漏れと何が違う
なお、申告漏れとは別に以下の報道もありました。いわゆる所得隠しです。
また15年3月期までの4年間は、旅行代や洋服代など約2千万円の個人的な支出を会社の経費にしていたとされ、所得隠しを指摘されたという。
申告漏れというのは、本来、申告すべきものを忘れていたまたは計算を間違えたため、納税できなかったことをさします。
一方で、所得隠しというのは申告漏れよりも悪質と考えられており、通常、経費でもないにも関わらず、必要経費として計上したり、架空な経費を計上して意図的に所得を小さくし、納税額を少なくする行為です。
実は所得隠しのと通常の経費の境目は難しい
徳井氏の場合の所得隠しの場合は、悪質な無申告行為があったため、国税側の心証が悪く、門前払いで旅行代や洋服代を個人的な支出と捉えられたのではないかと考えます。
しかし、実務上においては、その支出が経費に該当するかしないかの判断は結構難しいところがあります。国税側と納税者側での経費の計上の見解の相違は結構あります。
税金を徴収したい国税側と徴収されたくない納税側の互いの立場が真逆ですから相違があるのは当然でしょう。
例えば、徳井氏の経費計上が否認された旅行代ですが、番組のトークのネタのために行ったものであれば、全額は難しいですが、半分は経費にできたりできたのではないかと思います。
また、洋服代でも、実際に番組や撮影で用いられたものであれば、必要経費として認められるものと考えられます。
税務調査は交渉ごと 国税の心証がよければ課税されないこともある
今回の徳井氏の過去の行動からみても、徳井氏の発言に信憑性がないため、何をいっても、最大限に課税された実例でした。
では、はたして一般の税務調査の場合も徳井氏のようにとことん追徴課税がされるものかというと決してそんなことはありません。
通常の税務調査は3年以内での調査で終わることが多いです。3年以内で指摘事項がある程度あれば、5年まで遡ることもあり、今回の7年までの遡りは、相当悪質な場合と考えられるからです。
税務調査はあくまでも国税側の納税者側や税理士とのやりとりで「次回気をつけてください」程度で終わることもよくありますので、税務調査があっても過剰に心配することはありません。
徳井さんの今回の最大のミスは税理士をつけなかったこと
私見ですが、今回の徳井さんの最大のミスは税理士との顧問契約をしなかったことでしょう。徳井さんの収入であれば、税理士の顧問料を支払うことぐらい楽勝でしょう。
徳井さんぐらいの人気であれば、日頃から会社の経費精算や帳簿作成は難しかったことは予想は容易です。
事務的な部分を税理士にアウトソーシングさえしていれば、適正な申告や納税は税理士側がやってくれたはずです。
また、会社を設立してしまうと、上述の通り、法人税だけではなく、源泉所得税や消費税も発生してくるため税務は複雑となりますので、素人でやろうと思うと至難の業です。
しかし、その顧問料をケチったせいで番組降板だけでなく社会的信用まで失った形となりました。
税理士という職業はブラックボックスとなっていることが多かったため税理士をどのように選ぶか悩みどころでしたが、現在では、税理士.comなど税理士を探すサイトはたくさんあります。
アウトソーシングできることはできるだけして、本業に専念できる環境を作るべきでしょう。